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東京地方裁判所 昭和48年(行ウ)92号 判決

原告

株式会社日本メール・オーダー

右代表者

石井錬一

右訴訟代理人

成富安信

外二名

被告

東京都地方労働委員会

右代表者

塚本重頼

右訴訟代理人

萩澤清彦

参加人

全日本商業労働組合

右代表者

川崎常次

右訴訟代理人

小林和恵

外一名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

(一)  参加人を申立人、原告を被申立人とする都労委昭和四八年(不)第三号事件につき、被告が同年五月八日付でした別紙命令書(以下「命令書」という。)記載の命令(以下「本件命令」という。)を取り消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。〈中略〉

第二  請求原因

一  本件命令

参加人は被告に対し、原告を被申立人として、命令書理由第2・1・(1)記載のとおり救済命令を求める申立てをした。被告は昭和四八年五月八日付で命令書記載のとおりの本件命令を発し、この命令書写は同月一九日原告に交付された。

二  本件命令の違法性

本件命令は、原告が、昭和四七年年末一時金(以下「本件一時金」という。)につき、同年一二月一日参加人の日本メール・オーダー分会(以下「分会」という。)に対してした上積み回答に付していた「組合は生産性向上に協力すること」との前提条件に固執して分会と妥結せず、分会所属の組合員に対し本件一時金を支給しなかつたことをもつて不当労働行為であるとしているが、これは事実の認定および法令の適用を誤つたもので違法である。また、本件命令は、命令書主文記載のとおり分会所属の組合員に対する本件一時金の支給を命じているが、これは被告の権限を逸脱し、本来救済命令として命ずることができないことを命ずるもので違法である。よつて、本件命令の取消しを求める。〈中略〉

四  本件一時金の支給を命ずることの違法性

本件命令は、次の点において、被告の権限を逸脱し、本来救済命令として命ずることができないことを命じた違法がある。

(一)  原告は、分会との合意の成立がない限り、分会所属の組合員に対する本件一時金の支払いを義務づけられる法律上の理由はない。したがつて、被告といえども、原告と分会のと間に合意の成立がない以上、分会所属の組合員に対する本件一時金の支払いを原告に命ずることはできないものである。

(二)  不当労働行為制度の目的は自由対等な団体交渉が可能な状態への回復あるいは地ならしにあり、そのために自由な団結と争議行為に加えられた使用者による不公正な圧迫の排除と、閉ざされた団体交渉への門戸の解放をしようとするものである。不当労働行為制度の右目的からすれば、被告は、本件一時金問題のような本来労使双方の合意によつて処理されるべき問題については、本件命令のような直接合意の内容を決定づける救済命令を発することは許されず、たかだか団体交渉の自由対等性を回復させ、使用者がかたくなに閉ざしている団体交渉の門戸を開かせるに足りる救済の措置、すなわち本件についてみれば、原告に対し「生産性向上についての協力」という前提条件に固執することなく分会との団体交渉に臨まなければならないことを命じ得るにとどまるものである。

(三)  本件命令は「生産性向上についての協力」という前提条件なしに分会所属組合員に対する本件一時金の支給を命じている点において、JMO労組との間にこの前提条件を含んだ労働協約を締結している原告に対し、JMO労組との関係において不当労働行為となるようなことを命ずるものであつて、被告がこのような救済命令を発することは許されない。〈後略〉

理由

一本件命令

請求原因第一項の事実と、第二項の事実のうち、本件命令が、原告主張のとおり不当労働行為を認定し、その主張のとおり命じていることは、当事者間に争いない。

二本件一時金に関する交渉経過等

(一)  命令書理由第1・1記載事実は、本件命令が発せられた昭和四八年五月八日当時における分会所属の組合員数、原告の従業員数、JMO労組所属の組合員数を除いて、当事者間に争いない。弁論の全趣旨によれば、同日当時における分会所属の組合員数は二〇名前後位、原告の従業員数は二三〇名から二四〇名位であり、JMO労組所属の組合員数は一二〇名を下らないことが認められる。

(二)  当事者間に争いない事実と〈証拠〉によれば、次の事実が認められる〈証拠判断省略〉。

1  分会は昭和四七年一一月九日原告に対し、本件一時金について、支給額は基本給の五か月分に一律金二〇、〇〇〇円を加えた額(従業員一人平均金二七〇、〇〇〇円)とする、成績査定による支給額の増減は行なわない、との要求を提出し、JMO労組も同日ころ原告に対し、本件一時金についての要求を提出した。

2  原告は昭和四七年一一月二二日の団体交渉においてJMO労組に対し、支給額は基本給の3.71か月分(主任以下の従業員一人平均金一九二、一〇〇円)とする、その査定部分の割合は原則として上下二〇パーセントとする、との回答をするとともに、この支給額は昭和四六年の生産性に対する昭和四七年のそれの上昇率10.9パーセントを昭和四六年における賃金および一時金の総支給額に乗じて得た金額を基礎に算出したものであり、原告が支給し得る最大限度のものである旨を説明した。しかし、JMO労組は支給額につき強い不満を示し、われわれは従来より一生懸命労働に励んできたし、将来においても従来以上に一生懸命労働に励むとして、支給額の上積みを要求するとともに、支給額について再検討しないならばストライキも辞さないとの態度を表明した。そこで、原告はJMO労組に対し、将来において従来以上に一生懸命労働に励むということを考慮に入れて支給額につき再検討する旨を約した。

3  原告は分会に対し、昭和四七年一一月一六日に暫定回答をしたうえ、同月二四日の第一回団体交渉において、同月二二日にJMO労組にしたのと同一の回答および説明をした。しかし、分会は支給額と査定部分の割合の両方について不満を示した。

4  原告は、前認定のとおり、昭和四七年一一月二二日の回答の支給額につき再検討することをJMO労組に約していたところから、同月二九日JMO労組に対し、「生産性向上に協力すること」との前提条件を付したうえ、支給額は基本給の3.77か月分(主任以下の従業員一人平均金一九五、二〇〇円)とする、その査定部分の割合は同月二二日の回答どおりとする、支給対象者は支給日当日の在籍者とする、との全部で六項目にわたる回答をした。そして、JMO労組がこれを受け入れたので、原告は同月三〇日JMO労組との間に、右前提条件を含む右回答どおりの内容と支給日を同年一二月八日とすることを定めた労働協約を締結した。そこで、原告は右一二月八日JMO労組所属の組合員に対し、右労働協約に基づいて本件一時金を支給するとともに、非組合員たる従業員に対しても、JMO労組と同一内容、同一条件で支給する旨記載した文書と右労働協約の締結にともなつて作成された協定書を掲示したうえ、同日右同様本件一時金を支給した。

5  原告は昭和四七年一二月一日の第二回団体交渉において分会に対し「組合は生産性向上に協力することおよび会社玄関ドアガラスの破損弁償金七、五〇〇円の支払いをすること」との前提条件を付したうえ、同年一一月二八日にJMO労組にしたのと同一の六項目にわたる回答をしたが(但し、ドアガラスの破損弁償金の支払いという前提条件は同年一二月一二日に徹回した。)「生産性向上についての協力」という前提条件を付した事情については特に説明せず、この前提条件の内容についてもその文言以上に出でるような具体的説明はしなかつた。これに対し、分会は、右六項目についてはこれを受け入れる旨を表明したが、「生産性向上についての協力」ということは、人員削減をともなう合理化、労働強化、実質的な賃下げ、労働組合潰し、労働組合の御用組合化等につながるものであると受け止め、原告の職場においても労働強化が押し進められているなかで職業病患者が発生しているし、いわゆる生産性向上運動にみられる諸問題も発生しているとして、右前提条件についてはこれを受け入れることができないことを明らかにし、右前提条件を右回答から切り離すよう要求した。しかし、原告は、右前提条件が右回答と不可分一体のものであると主張して、譲らず、そのため、右第二回団体交渉は物別れに終つた。

6  原告は、本件一時金について、その後も分会との団体交渉を持ち、その際、「生産性向上についての協力」という前提条件の内容について、これは就労義務のある時間中は原告の業務命令に従つて一生懸命働くという趣旨であるとか、業務命令や残業要請に快く応ずる等原告に全面的に協力するという趣旨であるとか説明したりした。しかし、分会は右前提条件を昭和四七年一二月一日の回答から切り離すベきことを主張し、他方原告は右前提条件が右回答と一体のものであるとして、右前提条件の維持を主張し、両者とも互いに譲らないため 本件一時金についていまだ妥結するに至つていない。なお、原告は同月二九日分会に対し、右前提条件が受け入れられないというのであれば、支給額については同年一一月二四日に回答した内容により合意する用意がある旨通告した。

三不当労働行為の成否

労働組合は、憲法や労働組合法によるいわゆる労働三権の保障のもとに、使用者との自主的な交渉等により、その所属組合員の労働条件の維持、改善等を図ろうとするものである。そうすると、本件のように、会社が、その会社内に存在する二つの労働組合からそれぞれ受けた共通の要求に対して同一の回答を呈示し、この回答を受け入れた一方の労働組合とは労働協約を締結し、この回答を拒否した他方の労働組合とは労働協約を締結していないというような場合には、その結果両組合所属組合員の労働条件に差異を生じ、前者の労働組合所属組合員は後者の労働組合所属組合員より事実上有利な取扱いを受け、その反面として後者の労働組合所属組合員は前者の労働組合所属組合員より事実上不利益な取扱いを受けることになる。しかし、このことからただちに会社が後者の労働組合所属組合員を前者の労働組合所属組合員よりも不当に差別するものであるとか、後者の労働組合の運営に支配介入するものであるということはできない。それは、一般には、後者の労働組合の自らの選択―自主性に由来する当然の帰結とみられるからである。けれども、それが、会社の回答の内容やこれがなされるに至つた事情、回答をめぐる会社と両組合との交渉の経過、両組合の力関係等からして、後者の労働組合所属組合員であることの故もしくは組合活動をしたことの故のものであるとか、後者の労働組合の運営への支配介入を企図したものであるとみることができる特段の事情の認められるような場合には、なお不当労働行為を構成する。

そこで、以上の見地に立つて本件について検討すると、原告が分会に対する昭和四七年一二月一日の回答に付した「生産性向上についての協力」という前提条件は、それ自体としては何ら違法なものでも合理性を欠くものでもない。けれども、右前提条件は極めて抽象的ないわば精神的条項であり、右前提条件を付した事情として原告の主張する、従業員が生産性向上に協力するとの約束のもとに一生懸命業務に励めば、本件一時金の支給額について、従業員一人あたり金三、一〇〇円の上積みが会社経理上可能であることについては、〈証拠〉にこれに添う記載があるが、右記載はいずれも抽象的に過ぎ、具体的根拠を欠いているから、右主張事実を認めるに足りないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。また、原告が分会に対し右前提条件を付した事情を経理上の数字を挙げる等して具体的に説明したことを認めるに足りる十分な証拠もないし、原告が分会に右前提条件の内容として説明したところは、たかだか就労義務のある時間中は原告の業務命令に従つて一生懸命働くという趣旨である等というに過ぎなかつた。そうだとすれば、右前提条件の維持を主張して譲らなかつた原告の態度にはにわかに首肯し難いところがあり、この態度をもつて右前提条件を固執したものと評価されてもやむを得ないところである。他方、以上述べたところに加えて、一般に労働者側からは、生産性向上の名のもとに労働力の削減、労働強化、組合活動の制限がなされる場合が少なくないと受け止められている現状からすれば、分会が、前認定のとおり、右前提条件を受け入れ難いとしたことにはそれなりに無理からぬ理由がある。さらに、右前提条件は、原告がJMO労組にした同年一一月二二日の回答につき、JMO労組から前認定のような支給額についての上積み要求を受けた結果付されるに至つたものであり、JMO労組が右前提条件を受け入れるであろうということは原告において当初から明らかなことでもあつたものである。そして、これらの事実や前認定の分会とJMO労組の人的構成、原告と分会、JMO労組との団体交渉の経過、殊に原告がJMO労組と労働協約を締結した時期等を総合すれば、右前提条件を付した回答をしたこと自体はともかくとして、原告が右前提条件に固執して、本件一時金について分会と妥結せず、JMO労組所属の組合員や非組合員には本件一時金が支給されているなかで、分会所属の組合員に対してはそれを支給しなかつたことは、分会所属の組合員をそのことの故にあるいはその組合活動の故に差別し、同時に、これによつて分会所属の組合員を動揺、混乱させ、分会の弱体化を企図したものと推認せざるを得ない。したがつて、これは労働組合法第七条第一号および第三号の不当労働行為を構成する。

四本件一時金の支給を命ずることの適否

(一)  救済命令は、必要な事実上の措置を命ずることにより、労使間の関係を、当該不当労働行為がなかつたのとできる限り同じ状態に回復させることを目的とするものであるが、いかなる場合にどのような内容の救済命令を発するかについては法令に特段の定めはない。したがつて、救済命令の内容については、右目的の範囲内におして労働委員会の裁量に委ねられているものと解される。

本件においては、原告が、本件一時金につき、昭和四七年一二月一日分会に対して回答に付していた「生産性向上についての協力」という前提条件に固執して分会と妥結せず、分会所属の組合員に対し本件一時金を支給しなかつたことが不当労働行為なのであるから、原告の分会に対する同年一一月二四日の回答どおり本件一時金の支給を命ずるのでは、本件不当労働行為の性質、内容からして救済の目的を達し得ない。分会は同年一二月一日の回答に対し、右前提条件を除いた六項目については、これを受け入れる旨表明しているのであるから、この回答どおり本件一時金の支給を認めるのが相当であり、支給対象者については、JMO労組所属の組合員および非組合員には同月八日に本件一時金が支給されていることからして、同日の在籍者とするのが相当である。そうすると、本件命令が命ずるところは相当であつて、何ら違法なところはない。

(二)  救済命令の目的は前述のとおりであつて、救済命令は私法上の法律関係の存否の判断に基づいて法律上の措置を命ずるものではない。したがつて、原告の請求原因第四項(一)の主張は理由がない。

(三)  本不当労働行為の性質、内容からすれば、救済命令の内容としては、本件命令が命ずるところが相当であること前述のとおりである。原告の請求原因第四項(二)の主張のとおり命ずるのでは、本件不当労働行為については、その救済の目的を達するには十分でない。したがつて、原告のこの主張も採用し難い。

(四)  本件不当労働行為の性質、内容からすれば、分会とJMO労組との形式的平等取扱いを問題とするのは、本末顛倒の議論である。よつて、原告の請求原因第四項(三)の主張は理由がない。

五結論

以上のとおりであつて、本件命令は適法である。そうすると、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九四条後段を適用して、主文のとおり判決する。

(宮崎啓一 安達敬 飯塚勝)

命令書

主文

被申立人株式会社日本メール・オーダーは、昭和四七年一二月八日現在、申立人全日本商業労働組合に属する従業員に対して、昭和四七年年末一時金(一人平均一九五、二〇〇円)を申立人組合員以外の従業員に対すると同一の基準で支給しなければならない。

理由

第一 認定した事実

一 当事者

(一) 申立人全日本商業労働組合は、全国の商業およびこれに関連する仕事にたずさわる労働者が組織する労働組合であり、また、被申立人会社の従業員でこの組合に加入しているものは、日本メール・オーダー分会(以下「分会」という)を結成している。その分会員数は現在二七名である。

(二) 被申立人株式会社日本メール・オーダー(以下「会社」という)は、肩書地において主としてレコード、運動用具、教育用機材等の委託製造ならびに販売を営む会社で、従業員数は約二四〇名である。

(三) 会社の従業員は上記分会のほか、日本メール・オーダー労働組合(以下「JMO労組」という)を結成しており、その組合員数は約一二〇名である。

二 分会の年末一時金要求と会社回答

(一) 分会は、昭和四七年一一月九日、基本給×五カ月プラス一律二〇、〇〇〇円(一人平均二七万円)の年末一時金を会社に要求した。会社は、一六日に暫定回答を行ない、二四日の第一回団交において、基本給×3.71カ月、査定上下二〇%(一人平均一九二、一〇〇円)の回答を行なつた。

(二) しかし、分会がこれに対して強い不満を示したので、会社は一二月一日、第二回団交において「組合は生産性向上に協力すること及び会社玄関ドアガラスの破損弁償金七、五〇〇円の支払いをすること」を前提条件として、基本給×三、七七カ月(一人平均一九五、二〇〇円)、支給対象者は支給日当日の在籍者とするとの回答を行なつた(会社は、ガラスの破損弁償金の条件を後に撤回した。)

分会は、年末一時金の金額と査定については、不満ながらも同意したけれども「生産性向上に協力する」という前提条件については、労働強化のなかで、すでに職業病患者がでている上、やがていわゆる「マル生」同様の事態が発生することは必至であるとしてこれを拒否した。しかし、会社は、上記の前提条件は年末一時金についての回答と一体のものであると主張したため、結局、妥結に至らなかつた。

(三) 会社は、JMO労組に対しては、これより先一一月二二日、一人平均一九二、一〇〇円を回答したが、同組合が強い不満を示したので、二八日「生産性向上に協力する」という前提条件を付して一人平均一九五、二〇〇円を回答し(支給対象者は支給日当日の在籍者)、同労組はこれを受諾し、三〇日妥結した。そして会社は、一二月八日、同労組の組合員に年末一時金を支給すると同時に、非組合員に対しても、JMO労組と同一内容、同一条件で支給する旨を掲示し、同日支給した。

第二 当事者の主張と判断

一(一) 分会は、会社が分会にとつて同意できない前提条件を固執して、年末一時金を支給しないのは、差別扱いであり分会に対する破壊攻撃であると主張し、その支給と利息一割の付加支給およびポスト・ノーティスを求めた。

(二) 会社は、① 一二月一日の回答は生産性向上を見込んでの上積みであること、② 前提条件は回答金額と不可分のものであつて、いまだ妥結に至らない分会に一時金を支払わないのは当然であると主張した。

二 労使が年末一時金の団体交渉において、その提案や回答に条件をつけることは、その条件が違法である場合、いちぢるしく合理性を欠く場合等は別として、許されるところであり、会社が昭和四七年年末一時金の回答に際して、「生産性向上に協力すること」という条件を付したことを、直ちに違法視することはできない。しかし、「生産性向上に協力する」という表現は、きわめて抽象的であり、したがつて、分会としては、会社がこのような抽象的文言の条件を固執する真意をはかりかね、この条件を受諾した場合には、会社の方針いかんによつて、分会の活動が今後一方的に大幅な制限を受けるおそれがあると懸念したことも無理からぬ点がある。会社は、分会との団体交渉に際して、この意味について「時間中、指示命令に従つて一生懸命働く」ということであると説明したことがある。しかし、そのような意味であれば、分会の反対を押し切つてまでわざわざ年末一時金支給の条件とする程のことはなく、分会が会社の右条件固執には、特段の意味がかくされていると感じ、これに反発したことを一概に非難することはできない。

三 会社は、年末一時金の額について、「生産性向上に協力する」ことに見合う分を上積みしたと主張するが、(1) 会社が果して分会員のどのような行動を期待して幾何を上積みしたかは全く明らかでなく、(2) しかも、会社の回答に「支給対象期間は昭和四七年六月一日より同年一二月三〇日までの六カ月とする」と明示しているとおり、大半はすでに経過した期間を対象としているのであつて、賃金の後払いという一時金のもつ性格を反映している点から見ても、その妥結に際して、前記のような将来にわたつての協力を期待する条件を付することには合理性がなく、会社の主張は採用できない。また、会社は、分会が前記の前提条件を受諾しないならば、一一月二四日の回答額一九二、一〇〇円で妥結する用意があるとも主張するが、これは前記のような条件を取引きにして、分会員を不利益に取扱うもので許されない。

四 以上のように、会社と分会との間に、年末一時金について、妥結に至らなかつたのは、会社が前記のような前提条件を一体不可分のものとして固執した態度に起因する。したがつて、JMO労組の組合員および非組合員については、一時金が支給されているなかで、分会員について支給されていない結果をもたらしていることは、分会員に対する不利益扱いであり、同時にこのことによつて、分会員の動揺をさそい、分会の弱体化を企図したものと認めざるをえない。

五 そして、分会は前記認定のとおり、一二月一日には前提条件を除いて年末一時金の金額と査定に同意したのであるから、分会員についても、JMO労組および非組合員に対して年末一時金が支給された一二月八日現在の在籍者を支給対象者とすることが相当である。

六 申立人は年末一時金の支払について年一割の利息を付することを定めている。

(一) しかし、使用者の行為が債務不履行に該当するか否か、ひいて利息(遅延損害金)の支払義務をも負担するか否かの認定には、債務の発生、履行遅滞の有無、履行遅滞についての責任原因、履行遅滞について仮りに債権者側にも責任が存する場合の処置など多くの法律的判断を必要とするが、行政機関たる労働委員会はもともと使用者の不当労働行為の存否を認定し、これに対して事実上の救済を命ずる権限を有するに止り、このような点について公権的判断を下す立場にはおかれていない。

(二) もつとも、このように使用者の債務不履行の責任を追及するのではなく、使用者の不当労働行為によつて、労働組合員が受けた不利益を完全に回復するためには、事実上の救済として利息相当額の付加を考慮する必要も一般的に絶無とはいい難い。しかし、本件においては、①申立人が利息の付加支払を求めたのは最終陳述書のうちで始めて明示したものであり、したがつて、この点については被申立人の弁明すら徴しておらず、②まして、審問における証拠の取調べに際しては、利息相当額の付加支払の必要性について全く念頭におかれていなかつたものであり、③本件において、分会員に対する年末一時金の支給に利息相当額を付加しなければ救済としていちぢるしく不十分であるとは認められないから、年一割の利息の付加を求める申立は、その利率について論ずるまでもなく、これを認容しないこととした。

第三 法律上の根拠

以上の次第であるから、会社が前提条件を固執し、年末一時金について分会と妥結せず、これを支給しなかつたことは、労働組合法第七条第一号および第三号に該当する。

なお、申立人はポスト・ノーティスをも求めているが、本件の救済としては主文の程度をもつて足りると判断する。

よつて、労働組合法第二七条および労働委員会規則第四三条を適用して主文のとおり命令する。

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